「*** in Residence Kyoto」に参加して — 6組のクリエイターによるフィードバック

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2024年度よりモデル事業として取り組む「*** in Residence Kyoto」。初回では、4か所のレジデンスオーナーと、4か国から招いたクリエイターによるアーティスト・イン・レジデンスを行いました。
2025年度では前年度の経験や学びを活かし、プログラムをさらに拡張。左京区・京北限定だったレジデンスエリアを京都市内全域に拡大し、6か所のレジデンスオーナーと事業に取り組みました。さらに受け入れるクリエイターはアートのみならずファッションデザイナーやエンジニアなど領域をひろげ、国籍も多様化。25歳以下の若者から選任する「ユースコーディネーター」とともに、受け入れのサポート体制や地域との交流機会も拡充していきました。
滞在を終えた今、参加した6組のアーティスト———ズン・エイ・ピュー(ミャンマー)、ポール・ボヌヴィル(フランス)ファン・ジュヒョン&キム・テヒョン(ともに韓国)、ジュール・ゴリアス(フランス)、ジャン=ダヴィッド・ンコ&ステン・カジ(カメルーン)、コナー・カーク(アメリカ)より、本プログラムへのフィードバックをいただきました。
取材・文:浪花朱音 翻訳:オーリガ・ツォイ 撮影:株式会社マガザン
 
目次

💡滞在中に得た気づき

様々なバックグラウンドを持ち、異なる領域での表現に挑む6組のクリエイターを招いた2025年度。個々の関心や背景を踏まえてのマッチングとなった滞在先で、どのような気づきがあったのでしょうか。
 

地域の持つダイナミックなエネルギー - ジャン=ダヴィッド・ンコ、ステン・カジ

「人間の状態」をテーマに、現代社会を支えながらも可視化されにくい人々の労働と苦悩を描き、彼らを現代のアイコンとして位置づけることで、利益を優先する経済モデルを人間と環境の両面から問う、ジャン=ダヴィッドとステン。「京都の景観に深く入り浸りたい」という作家の滞在先は、京都駅の西側に位置する梅小路エリアでした。かつては鉄道輸送の拠点として、戦後は京都の食品流通の中心地でもあったこのエリア。現在も京都中央卸市場を中心に古くからの商店が残ると同時に、新たなものづくりカルチャーが交差する地域でもあります。ジャン=ダヴィッドとステンはここでの滞在をこう振り返ります。
「地域の持つ『ダイナミックなエネルギー』が特に印象に残っています。小さな商店やレストラン、多目的スペース、そして魚市場まで、すべてが美しい調和の中で共存しているように感じられました。どれも過剰に主張することはなく、街全体が自然な形で融合していました。新旧が巧みに混ざったインフラや建物もとても印象的でしたね。滞在したスタジオの、異なる職業や年齢の人々(アーティスト、教授、学生など)が集まる環境も刺激的でした」
 

日々のリズムを変えた、町家での生活 - ズン・エイ・ピュー

医師であり、参加型・体験型のアートやコミュニティを基盤にしたアートプロジェクトを手がけるズン・エイ・ピュー。アートセラピーの考え方に基づいたワークショップや、仏教的な死生観をテーマとする演劇作品を制作し、共感や対話、レジリエンスを育む場を生み出してきました。
ミャンマー出身で、自身もテーラワーダ仏教を信仰しているというズン。浄土宗の寺院・金戒光明寺に滞在し、自身と異なる信仰を入口に、京都の歴史や当時の人々の暮らしや社会課題まで関心をひろげていったそうです。
「ここに滞在したことで、レジデンス前に持っていたアイデアが大きく変化しました。リサーチ、町家での日常、そして人々との対話を通して、当初の計画は少しずつ形を変えていきました。この『変化のプロセス』そのものが、今回の滞在で最も意味深い体験のひとつとなりました。
また、寺院にゆかりのある町家での生活は、私の日々のリズムを変えました。静かな朝、鐘の音、庭から差し込む光——それらが私のペースをゆるやかにし、人の声だけでなく、自分自身の内側の声にも耳を傾ける時間を与えてくれました」
 

大都市とは異なる、大原野の環境 - ファン・ジュヒョン、キム・テヒョン

無意識がどのように他者に視覚的に表現されるのかをテーマに、内面の状態を映し出す視覚言語を掘り下げるファン・ジュヒョンと、写真と映像のあいだを行き来しながら視覚的再生産の可能性と、その不可避的な限界への持続的な関心を探るキム・テヒョン。ともに韓国からプロジェクトに参加したふたりは、豊かな自然に囲まれた大原野エリアにあるアートスペース「OHARANO STUDIO GALLERY」を滞在場所としました。
「最も印象的だったのは、京都、特に大原野の地域で感じられた日常の静かな密度感です。刺激が絶え間なく溢れる大都市とは異なり、この場所のリズムは観察や思索を続ける時間を許してくれました。
スタジオまで歩く道、何度も目にする家や庭、慣れ親しむ周囲の音­——こうした小さな日常が、徐々に時間の深みを作り出してくれました。
過去のレジデンシーと比べると、今回の経験は成果物の生産性よりも、場所や人、時間に調律されるプロセスに重きが置かれていたように思います。
自然と住環境に囲まれたOHARANO STUDIO GALLERYは、孤立とつながりが共存する稀有な環境を提供してくれ、制作にも大きく役立ちました」
 

レジデンスオーナーの高いホスピタリティ - ジュール・ゴリアス

フランス出身のジュール・ゴリアスは、彫刻、インスタレーション、サイトスペシフィックな介入を手法に、個人的な物語と集合的記憶を重ね合わせる旅的・パフォーマティブな交換プロジェクトを展開するアーティストです。以前から京都とは関わりがありましたが、京都市北区・船岡山にある一級建築士事務所「STUDIO MONAKA」が滞在先となったことで、これまで知らなかった京都の一面に出会うことになりました。
「この地域の生活は穏やかで、時間がほとんど止まっているかのような静けさがあり、芸術的なプロジェクトの思索や発展に非常に適した環境でした。北区の強いアイデンティティと住民たちの存在は、私に深い印象を残しました。
STUDIO MONAKAの建築における実践やチーム感が素晴らしく、さらにホスピタリティを持ってプロジェクトサポートに取り組んでくれました。スタジオで行われたお祝いの瞬間や発表会、企画してくれた様々な出会いの場……。これほどリラックスでき、こまやかな支援や寛大な条件のもとで制作するのは、初めての経験でした」
 

慣れ親しんだ京都での滞在は、長期出張のよう - コナー・カーク

機械エンジニア、起業家、そしてビジュアルアーティストとして多岐にわたる活動を続けるコナー・カークは、非常にリラックスした面持ちで本プログラムに参加。アメリカ出身のカークは、サバンナ芸術工科大学(SCAD)を卒業した2011年に京都に移住し、8年間滞在。その間、京都市美術館での展示や、「ニュイ・ブランシュKYOTO 2016」の一環として個展を行うなど、京都とは深い関わりを持っています。
「通常のレジデンスでは、不慣れな環境に行き、到着してから何を作るかを決めます。しかし、京都は私にとって非常に馴染みのある場所で、滞在前に数ヶ月かけてすべての計画を立てることができました。時にはレジデンスというより長期の出張のように感じることもありました。滞在先の『ひのでやエコライフ研究所』で最終プレゼンをしたとき、かつて京都で働いていた時の上司が来てくれ、なんと5年ぶりの再会でした。過去と現在の私がどう変わったのか、上司の目を通して見ることができ、とても面白かったです」
 

ていねいなプロジェクト設計で、初日からすぐに入り込めた - ポール・ボヌヴィル

ポール・ボヌヴィルは、日本のファッションブランド「CFCL」や「ヨウジヤマモト」でアシスタントを務めるなど、日本での実務経験も豊かなファッションデザイナー。母国・フランスと日本をまたぐ活動を展開し、日本に拠点を構えることをも目指していると言います。上京区にある西陣織旧工場での滞在制作は、ボヌヴィルの将来的な活動への架け橋のひとつになり得たと言えるでしょう。プログラム全体の構成について、ボヌヴィルはこう語りました。
「事前準備からプロジェクトの進行、そして地域で活動するプロフェッショナルな方々とのミーティングまで、とてもていねいに設計されていると感じました。
初日からすぐに京都、そして西陣織という工芸の世界の中に入り込めた感覚がありました。出会う人々はとても温かく、常に助け合い、アイデアを交換しようという姿勢で接してくれました。そのおかげで、安心して制作に没頭することができました。滞在がもっと長ければいいのにと思いましたが、それは単純にチームや環境がとても素晴らしかったからです(笑)」

💡交流がもたらしたもの

レジデンスオーナーや、本プロジェクト独自の試みであるユースコーディネーター、滞在地域の人など、多くの人との関わりもこのプロジェクトの醍醐味です。滞在中の交流が育んだものや、クリエイターに与えた気づきとはどんなことだったのでしょうか。

さまざまな出会いと視点をもらった

「私はイベント、ワークショップ、リサーチ、そして多くの議論を通じて、『修理』という概念を探求しました。電子廃棄物、所有権、修理権、循環型経済といったテーマがより一般的になりつつある中で、修理はこれらの議論をつなぐ共通テーマとなります。
学者、行政職員、中学生、高齢者、業界の専門家、若手起業家など、京都のさまざまな人々と出会い、修理に関する考えを語り合う機会がありました。彼らの視点や、修理というテーマへの関心や認識が芽生えていく様子を見ることは、私の制作に大きな影響を与えました」(コナー・カーク)
 

コミュニティとの関わりが大きなインスピレーションに

「個人的な体験とアプローチを重視したため、環境は創作に大きな影響を与えましたね。全く異なる文化環境に身を置いたことで、常にオープンで好奇心旺盛な姿勢でのぞみました。
梅小路はクリエイティブな地域であり、自然やコミュニティとのつながりの強さを感じられたことも、大きなインスピレーションとなりました。最大の課題の一つは言語の壁でしたが、最終的には克服可能だったと感じます。また、自分の作品や意図を伝えるために、より創造的に考え、少し『踏み込む』ことが必要でした。私の出身地であるカメルーンの文化に触れたことがない人々も多く、伝えるには工夫が必要でした」(ジャン=ダヴィッド・ンコ)
 

コミュニケーションの本質に気づいた

「コミュニケーションや理解、共同制作には通常より多くの努力が必要ですが、それによって生まれるつながりはより特別で意味深いものとなると感じます。私はできる限りの共有を試み、周囲の人々から大いに学ぼうと心がけました。
制作の方法も本質的に変わったと感じます。より長い思索の時間を自分に許し、他者への信頼を大きく置くようになりました。芸術は常に共同の冒険であり、制作、共有、解釈のいずれにおいても、コミュニケーションが容易でない場合でも他者に手を差し伸べ続けることが不可欠ですよね」(ジュール・ゴリアス)
 

この地域ならではの日常を体験

「今回滞在したスタジオを運営されているべ・サンスン氏は、地域の中心的人物として住民と密接な関係を保ちながら、さまざまな芸術イベントで地域文化の活性化に取り組んでいます。そのおかげで、私は大原野で活動する様々な地域主体と交流することができました。例えば、近隣のいちご農家の手伝いをして家庭料理をごちそうになる経験や、発酵食品研究者の家で「旨味」の研究成果を体験することなどです。
これは外国人である私にとって、京都を体験する一般的な範囲を超え、むしろ国境を越えた生活体験に近いものでした」(キム・テヒョン)
 

言語の制約を飛び越えた交流

「私は京都地域の住民108名を対象に行ったポートレート撮影のセッションが、特に印象深い経験です。対話は言語の制約により短く限られることも多かったのですが、沈黙の中で交わされる視線や瞬間的な共感は、非常に深く心に響きました。意味のある交流を生み出すために、必ずしも深い言語的コミュニケーションが必要なわけではないと学びました。単純な存在感、繰り返される出会い、相互の尊重だけでも、十分に深い関係は形成されると感じます」(ファン・ジュヒョン)
 

レジデンスオーナーとの協働

「この1か月間で体験した環境そのものを、できる限り作品に反映させたいと考えていました。レジデンスオーナーの武田真彦さんに工場での思い出を語る音声の制作を依頼したのは、『協働』を形にしたいと考えたからです。そうしてできたランタン作品は、*** in Residence Kyotoのチームとの対話や、彼らと共有した発見がなければ、まったく違うものになっていたはずです。
また、レジデンス終了後もアイデアを共有し続けたいと思える、多くのクリエイターやアーティストと出会うことができました」(ポール・ボヌヴィル)
 

ユースコーディネーターの姿勢からの学び

「言語や文化、世代の違いを自然に橋渡しするユースコーディネーターの姿勢から、協働とは必ずしも大きなアクションや特別な仕組みを必要とするものではないのだと気づかされました。ただそこにいること、相手が安心して言葉を紡げる空間をつくること­­——それだけで十分な場合もあるのだと。アーティストとして、作品を生み出す人であると同時に、人々が振り返り、つながり直すための“場”をそっと支える存在でもありたいと思うようになりました」(ズン・エイ・ピュー)

💡これからのプログラムに向けて

最後に、今後プログラムが発展的に続くことを目指し、期待することを伺いました。多くのクリエイターが参加への喜びを語るとともに建設的なアドバイスをいただいたので、ここに紹介します。

より多くの人が参加できるプログラムへ

 「より多くのホストが参加し、訪問者を歓迎してくれる機会を増やしてほしいです。このプログラムには、人と人とのつながりという素晴らしい価値があり、訪問者とホスト双方にメリットがあります」(ジャン=ダヴィッド・ンコ)
 
「今回のレジデンスは、できるだけ早く京都に戻り制作したいという強い意欲を与えてくれました。
このレジデンスに臨む際は、制作のアイデアを非常に自由に持ち、現地で出会う人々や状況に導かれることが重要だと思います。
最終的な成果物は、プロセスの誠実さほど重要ではありません。むしろ、現場の文脈や制約と真に対話して生み出されたときのみ、意味のあるものとなります。このレジデンスを検討するすべてのアーティストに、そう伝えたいですね」(ジュール・ゴリアス)
 

地域との関わりを増やしてほしい

一方で、今後の改善に向けた具体的なアドバイスもありました。
 
「レジデンス参加者と地域住民との長期的な対話を可能にする仕組みがあると興味深いと思います。例えば、定期的なワークショップや非公式の会話の場があると、より深い交流が生まれるでしょう。また、完成作品だけでなく『進行中のプロセス』を共有できる小さな場があれば、実験と交流がさらに活発になると期待しています」(ファン・ジュヒョン)
 
「京都で行われている他の芸術イベントとつながる機会は、想像していたほど多くなかったのが残念でした。これは私の滞在期間の制約によるところもありますが、同じ時期に京都に滞在する他の創作者との芸術的交流が、もっと増えると良いと感じます」(キム・テヒョン)
 
「地域との関わりを軸にしたプログラムである場合、1か月という期間は、あるテーマに触れ、リサーチを始めるには十分ですが、プロジェクトを深めるにはやや短いとも感じました。今後の再訪や継続的な取り組みへとつながる『出発点』として機能する期間だと思います。
また、プロセス重視のレジデンスであることは素晴らしい点ですが、主催者側が『どこまで支援できるのか』『どの部分は難しいのか』といったサポート範囲をより明確に共有できると、参加アーティストが自らの活動計画をより主体的に判断できるのではないかと思います」(ズン・エイ・ピュー)
 

 
参加クリエイターにとっても、様々な気づきがあったことが伺える2025年度の「*** in Residence Kyoto」。作品制作やそれに伴う時間ではなく、ともに囲んだ食卓や、何気ない会話、言葉を交わさず静かに過ごした時間など、日常的な場面こそが深い思い出となったと話すクリエイターの多さも印象的でした。単なる制作、滞在の場を提供するプログラムにとどめるのではなく、オーナー、地域住民、若者とで積極的に関わりをつくっていくことが、今後の鍵ともなりそうです。