外から来ることで、内側が動き出す。京都で「構想」が「実践」に変わった一ヶ月

The English version of this Article can be read from here!
 
「*** in Residence Kyoto」は、海外からやってくるクリエイターと、京都の生活者が日常を共有して学び合い、新しい価値観や関係を育てていくレジデンスプログラムです。
今回のレジデンスの舞台は、京都市 中京区の「ひのでやエコライフ研究所」。
環境問題を「事業として取り組む」ことを考え続けてきたこの場所で、アメリカからエンジニアのConnor Kirkが1か月間滞在しました。 Connor Kirkの滞在が、「ひのでやエコライフ研究所」で長く温められてきたアイデアを“始める理由”に変えていきました。
レジデンスの最終日。Youth Coordinatorの山本一輝がその一日を密着し、その変化のプロセスをたどります。

Creator


Residence


🎤
  • 聴き手・記事執筆 ユースコーディネーター
 
本文中には、執筆担当以外の Youth Coordinator たちによるコメント[🌀YCノート🌀]をところどころに挟み込んでいます。ページを進めるたび、別の目線からの気づきや驚きがそっと挟み込まれるような、多層的な読み心地を感じてもらえると嬉しいです。
 

2025年11月6日(木) 13:00 at ひでのやエコライフ研究所 (天気:⛅️ )

この日は、ひでのやエコライフ研究所にて「Repair Time 」が開催されました。
スマートフォンの分解を体験しながら、それぞれのスマートフォンの「修理可能性スコア」と、実際の修理のしやすさを比較するワークショップでした。
「Repair Time 」の開催後、ひのでやエコライフ研究所(以下、ひのでや)の大関はるかさん、山見拓さんに改めてお話を伺いました。

環境問題を「事業として回す」  ーひのでやエコライフ研究所の活動

 
かずき
ひのでやさんはどういうふうに始まったんですか?活動について教えてください。
山見拓さん(以下、拓さん)
ベースにあるのは、環境問題を事業として回していく、という考え方ですね。
最初はひのでやの代表の鈴木靖文が1999年に個人事業主として初め、2000年に有限会社になりました。いろんな運動があるんですけど、環境問題に対して声を上げるだけじゃなくて、ちゃんとお金も回る形で続いていくほうがいいと思っていて。理想的なことに取り組みながらでも、ビジネスとして成立させることはできるはずだし、そのほうが広がりも早い。
自分たちが当事者として事業をやりながら、同じような取り組みをしている人たちをバックアップできないか、というスタンスでやっています。
大関はるか(以下、はるかさん)
 
そうだね。 普段は鈴木さんを中心に、いろんなアプリやツールの開発をしています。自分の家が出しているCO2の量をポイントで可視化したり、こんな取り組みをしたらこれだけCO2が減るよ! ということが診断できるツールも作ってきました。自転車を漕いで自分で発電をする自転車発電装置の貸し出しをやっていたり。
 

「ひのでやみたいなところが入ったら面白くなる」 ー背中を押してくれたレジデンス事業への誘い

 
かずき
ひのでやさんはなぜ***in Residence Kyotoに参加されたんですか?きっかけがあればお聞きしたいです。
はるかさん
きっかけは杉田真理子さんから連絡があったんだよね。「京都市で***in Residence Kyotoという新しいレジデンスのプログラムを始めたんですけど、ひのでやみたいなところが入ってくれたら面白くなる!」と言われて、参加しました。
かずき
***in Residence Kyotoに参加することで、求めていたことはありますか?
はるかさん
やりたいと思っていることがあっても、自分たちだけでやっていたらだめだっていう気持ちがよくあって、刺激を求めて海外に行ってみるとかそういうことはしていたけど、この事業は海外のクリエイターや外部の人が来てくれるわけで、そんなありがたい話ないなと思って、参加を決めました。
拓さん
そうですね、来てくれることもそうですし、自分たちで「この人に来てほしい」と人を探したり選んだりということができたので、受け身じゃないことがまた良かったです。 今まで誰かに来てもらうことはあったけれども、今回は自分たちでやりたいことに合わせた人を選べたことが大きかったです。
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YCノート | Kazuki
企画は実現しなかったが、ひのでやさんのお二人をお借りしながらリペアのワークショップを企画していた。 その際、お二人はリペアの知識もない僕にリペアとリメイクの違いやリペアのワークショップの先行事例など教えてくださった。 この経験からひのでやさんが地域とリペアをつなぐ場所として機能していることがすごくよく理解できた。

「来なかったら、去年と同じ秋だった」  ーレジデンスがもたらした変化と、コナーさんという特別な存在

かずき
コナーさんが来てからから数週間が経ちましたが、実際にどうですか。
はるかさん
本当にいろんなことが動いています。これまで動かなかったことが、ぐっと。 もしコナーさんが来なかったら、去年の秋と同じように過ごしていたかもしれません。やっぱり彼が来たことによって、「じゃあこういうことをしましょう」といろんなイベントを入れたり、それをきっかけにまたいろんな人とつながったり。それはもう本当に感謝ですね。
拓さん
うんうん、大変なこともあるけれど、でもそれに見合うものをもらってる。
かずき
***in Residence Kyotoをエンジンにして活動が広がっているんですね!具体的に、何がそうさせてるんですか?
はるかさん
いろんな方面から注目してもらうことができました。 例えば東大や京大の先生とか、つながりが一番大きかった!
あとは、コナーさんと一緒だから生まれたいろんな企画とかアイデアは、絶対自分たちだけではできなかったですね。コナーさんと一緒に過ごせたことで、おそらく世界で初めてかもしれないリペアのワークショップをやれているというのは、すごい価値があるなと思っています。
かずき
ひのでやさんにとって、これから関係していく人を増やして活動を広げていく先に、目指していることは何かありますか?
はるかさん
例えば、世界で始まっている「修理可能性スコア」について日本で活動をしてみたいとずっと思っていましたし、リペアカフェももっと広まったらいいなと。 でもそういうときに、ただ数打ちゃいいとは思ってなくて、日本の文化や特性みたいなものを自覚的に取り込みながら輸入したいなって思ってて。それをするのにも、コナーさんに来てもらえたことはピッタリでした。
今までにも経験があるんですけど、欧米の人と話しているときに、表面的には理解し合えた感じなんだけど、実はずっとすれ違ってるみたいなことっていうのがあって。コナーさんの場合は、日本に住んでた経験があり、奥さんが日本人で、加えて本人が結構日本人的な感覚も持っていて、欧米と日本の両方の性格を持ち合わせてるとても稀有な存在です。
また彼は日本語も話せるので、これが全部英語だったら、このスピードで活動はできてないとも思います。 コナーさんのおかげで、やりたいことを表面的じゃなくちゃんと深掘りができている感じがします。
この一ヶ月、優先順位をめちゃくちゃ上げてリペアについて動くことができました。 レジデンスの期間に集中して取り組めているからこそ、いろんなつながりもできているし、深く考えることもできています。
拓さん
この活動が、今後の会社の事業にもつながる取り組みになる気がしています。本当にいろんな人と、これからの「種」になるものをもらったり、生み出したりできているので。
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YCノート | Kazuki
実際クリエイターを受け入れる前のお二人と関わっていたが、この滞在を活用し切るため予定の組み方がすごかったのをよく覚えている。
 

「無理です」を越えるために  ー多様な関係者をつなぐ ***in Residence Kyoto 事務局のバックアップ

 
かずき
***in Residence Kyotoだからこそ、今回の滞在は実現したんですかね。
拓さん
***in Residence Kyotoの事務局の皆さんの存在は大きかったと思います。 この規模のことをやろうとすると、いろんな立場の人や住民が関わってくる。そのような状況のなかで、事務局の人たちがバックアップしてくれているという安心感がありました。もしそれがなかったら、いきなり自分たちだけでやるのは正直かなり大変だったと思います。
かずき
具体的には、どんなバックアップがあったんですか?
拓さん
クリエイターや地域の方をはじめ、さまざまな関係者とのやり取り全般を進めてくれたのもあるのですが、特に印象的だったのは、家族の件ですね。 コナーさんの場合、アメリカの家族と離れての長期滞在が難しく、お子さんも含めて家族で来たいという希望がありました。そのとき、お子さんを小学校に通わせたいとなると、住民票がない人が地元の小学校に通うのは、制度上は基本的に難しいんです。
普通なら「無理です」で終わる話なんですが、「こういう事情がある」ということを丁寧に説明してもらって、「そのエリアに住んでいるのであれば」という条件付きで受け入れてもらえるよう調整してもらうことができました。
まさに、そういう交渉を***in Residence Kyoto事務局がやってくれたからこそ実現したことだと思います。難しい調整だったと思いますし、そのような対応をしてくださったことは、本当に特別なことだったと思います。
かずき
これからも、***in Residence Kyotoやレジデンスの取り組みに参加していきたいと考えておられますか?
拓さん
もしまた似たようなプロジェクトをやることがあれば、ぜひ一緒にやりたいですね。 そのときは、何か手伝えることもあると思います。

 
大関はるかさん、山見拓さんとのお話のあと、コナーさんが仕事をしているひのでやエコライフ2Fのワークスペースにお邪魔し、お話を伺いました。
 

「準備された1か月」  ー短期集中で最大化するレジデンス

 
かずき
Repair Cafeお疲れ様でした!改めてですが、今回滞在されてみてどうですか。
Connor Kirk (以下、コナーさん)コナーさん
結構うまくいってると思います。東大の研究者の方などたくさんの方々からいい注目をしてもらっています。教授を含めたくさんのいいつながりができました。
かずき
イベントとか、講座とかやられてて、なんか印象的だったことややってよかったと思ったことなどはありましたか。
コナーさん
今回の僕のレジデンスと他のレジデンスの大きな違いがあります。それは僕たちは、3か月前ぐらいから、何回もオンラインでミーティングをして、最大限に活動したいっていう話がありました。最初から、このわずかな1か月と短い期間の間にたくさんの企画をしようと、結構早い段階からミーティングをしていた。 それはやってよかったです。
特に、アーティストの方は、滞在先のその場所に行きその空気を感じ取ってから、ぼちぼち考える。その感じのレジデンスが多いと思うんだけど、僕たちはそうじゃなくて、「とにかくたくさん、意味のあるイベント・企画をやろう!」と話していました。
かずき
もともと、やまみさんとお知り合いだったと聞いたんですけど、今回の滞在のきっかけはそこからなんですか。
コナーさん
そこからですね。 僕が昔、京都中央卸売市場に位置するKyoto Makers Garageの立ち上げのときから関わっていて、最初の2年間ぐらいはそこで店長をやっていたのですが、そこでやまみさんと知り合ったんです。
かずき
そうなんですね!僕もKyoto Makers Garageに行ったことあって、友人が働いています!間借りで飲食店をやっていたことがあるんですけど、Kyoto Makers Garageで看板をその友人と一緒に作りました。あの場所の立ち上げをされたんですね。京都での滞在は今回が2回目ということですか?
コナーさん
そうですね。最初は22歳のときでした。

「アウトプットしないと、自分の一部にならない」  ーレジデンス期間で生まれた自信

 
かずき
今回の、レジデンス前と今回滞在してみて変化はありましたか。 ご自身の活動でも、気持ち的な変化でも構いません。
コナーさん
人前で日本語を話す自信がつきました。これまでは少し不安があったんです。 3か月前からやまみさんたちといろいろ企画の話をし始めて、「10月23日に中原区役所で修理可能性スコアについて25分、日本語で発表する」という話が出たとき、正直心の中では不安でした。でも「やりましょう」と言って、結果的にうまくいきました。
そういう経験の積み重ねですね。1ヶ月という短い期間でも、これだけ自信がつくんだなと感じています。
かずき
そうだったんですね!そんなに不安があったなんて気づきませんでした。
コナーさん
数週間前とは感覚が全然違いますね。やっぱり、短い期間でも環境に入ると一気に変わるんだと思います。本当に、人間ってすごい生き物だと思います(笑)。
かずき
今回のレジデンスを通して、活動への影響や、知見が広がった感覚はありましたか。 日本での活動を通して、これを試してみようと思えたことなどがあれば。
コナーさん
やっぱり、インプットしたものをアウトプットしないと、自分の一部にならないなと強く感じました。調べるだけではだめで、人に説明したり、形にしたりして初めて、ちゃんと身につく。今回の滞在では、アウトプットの機会がすごく多かったです。
かずき
今回の滞在で本当にいろんなアウトプットをされていますよね。
コナーさん
3週間前の自分だったら、修理可能性スコアについて、こんなに自信を持って人に説明できなかったと思います。今は、自信を持って話せる感覚があります。
かずき
この滞在期間に、修理可能性スコアやリペアカフェ、そしてAI講座までされましたね。その際コナーさんはご自身をどのように紹介していますか?
コナーさん
実は結構悩みました。今回のレジデンスのために、新しく自分を言葉にしようとしたので。 「自分の名前の下に何を書くか」というのは難しいですね。本業は機械エンジニアなんですが、それだけではない自分も出したいと思っています。将来的には、もっと幅広い領域で仕事をしたいです。

「何を残したいのか」を考える  ー 機械エンジニアにとどまらない視点

 
かずき
コナーさんの原動力や、目指している社会像はありますか?活動を通して、どんな未来を残したいと思っていますか?
コナーさん
そのあたりは、今も頭の中で更新され続けています。 修理可能性スコアや環境問題は、もちろん大事にしているテーマですが、もっと個人的な話をすると、僕には子どもが3人いて、子育てをしている中で、教育についてよく考えるようになりました。
この前、はるかさんややまみさんとも話したんですが、学校でのテクノロジーの教育には不安もあります。パソコンやiPadを、仕組みを十分に理解しないまま、8歳くらいの子どもに完全に自由な状態で渡すのは、少し無責任なんじゃないかと思っています。
一方で、テクノロジーそのものを否定したいわけではありません。 学校の先生やコンサルタント、政府などが一緒になって、「子どもたちにどう教えるべきか」を考える機会が必要だと思っています。
かずき
お子さんの存在が、大きく影響しているんですね。
コナーさん
「相談する相手がいない」と感じた子どもがAIに相談して、結果的に自殺に至ってしまったケースも報告されています。AIがどういう仕組みで動いているのか、どういう存在なのかという教育が、圧倒的に足りていない。もし多くの子どもたちが、AIは「ただの道具」だと理解していれば、違った結果になったかもしれないと思います。
だからこそ、政府や学校と一緒に、AI教育を開発していくような仕事ができたら、とても価値があると感じています。
かずき
確かに、そういう教育って意外とないですよね。
僕自身、大学でデータサイエンスを学んでいて、AIに学習させるデータベースを作る側の勉強もしているんですが、怖さを感じることもあります。そういう教育は本当に必要だと思います。
コナーさん
子どもたちには、「AIは道具であって、友達ではない」ということを伝える必要がありますね。
かずき
今回ご自身でやられた企画と、地域との結びつきについては、どんな手応えがありましたか?
コナーさん
僕たちがやっていることに、興味を持ってくれる人が確実に増えています。 この事業を通して、役所の方々とも継続的な関係を築けそうな感触がありますし、将来的につながっていく可能性を感じています。
 

 
海外からクリエイターが来て、同じ場所で時間を過ごし、会話を重ねる。そこで生まれたアウトプットが、これまで動けなかったことを、少しずつ前に進めてくれる。 そんな変化を生み出すきっかけになることが、レジデンスの魅力であると感じました。