静かな京都の里山で続く暮らしとクリエイターの交わり

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「*** in Residence Kyoto」は、海外からやってくるさまざまなクリエイターと、京都に暮らす生活者が日常を共有し学び合い、新しい価値観や関係をともに育てていくレジデンスプログラムです。
2025年、右京区 大原野に位置するOHARANO STUDIO GALLERY に、韓国からふたりのクリエイターが約1ヶ月間滞在制作を行いました。
竹林に囲まれ、静かで、自然の気配が色濃く残る大原野。 京都の中心部から少し離れたこの里山には、落ち着いた暮らしの時間が流れています。

Creator


Residence


このスタジオを運営するのは、クリエイターとしても活動し、レジデンスオーナーであるベ・サンスンさん。この夏、OHARANO STUDIO GALLERYに滞在したのは滞在するのは、AI技術を用いて制作を行うメディアクリエイターのJuhyun Hwangと、ドキュメンタリー作家のKim Taehyun。
彼女と、滞在した二人のクリエイター、そして大原野に関わるひととともに、大原野の名所である竹林を散策した日。Youth Coordinatorの山本 一輝と、カンウキンが密着し、滞在の記憶をたどりました。
クリエイターの二人は、大原野の風景にどこか自分が生まれた国の風景と似たものを感じたと語っていました。そんな広大な自然に囲まれたこの土地には、彼らの哲学を静かに後押しするような環境があると感じました。京都の風景や人々の営みを、急かされることなく、的確に捉えることができる環境ではないでしょうか。
🎤
  • 聴き手・記事執筆 ユースコーディネーター
 
本文中には、執筆担当以外の Youth Coordinator たちによるコメント[🌀YCノート🌀]をところどころに挟み込んでいます。ページを進めるたび、別の目線からの気づきや驚きがそっと挟み込まれるような、多層的な読み心地を感じてもらえると嬉しいです。
 

Interview with Residence Owner ー べ・サンスンさん, OHARANO STUDIO GALLERY

「クリエイターのための場所」をともに耕す。準備の1ヶ月。

「*** in Residence Kyoto」のプログラムが始まる前、8月のMEETUPでユースコーディネーターの山本一輝(かずき)は、レジデンスオーナーのベ・サンスンと出会いました。
9月、まだクリエイターが到着する前の大原野。そこには、連日スタジオの改装に打ち込む二人の姿がありました。多い時には週4日。椅子の制作から、リビングの床・天井、お風呂、トイレのドア、そして壁の左官まで。もともとはべ・サンスンさん自身のスタジオであり、友人が滞在したり展示を行う場だったこの空間を、「世界中のクリエイターを受け入れるためのレジデンス」へと生まれ変わらせるための日々が始まりました。
べ・サンスンさんがなぜ、この大原野という里山でレジデンスを開くのか。 「クリエイターには、自分と向き合うための静かな時間と豊かな自然が必要」 自身の作家としての経験に基づいたその強い想いに触れながら、かずきは彼女が本当に作家のことを想って場所を作っているのだと肌で感じていきました。
改装中、スタジオには建築家や写真家、地域住民など、クリエイティブで面白い人々が次々と出入りしていました。べ・サンスンさんがつなぐ縁によって生まれる出会いは、かずきにとって大きな喜びでした。
車中での会話も忘れられません。 「自分自身を貫き通す生き方をしたい。それで離れてしまう人がいるのは寂しいけれど」 力強く見える彼女が覗かせた繊細な本音。また、文化事業を運営する上での立地や集客といったリアルな悩み。それらを共有してもらったことは、かずきにとって「文化を育むことの難しさと尊さ」を学ぶ、かけがえのない経験となりました。
地域への愛、そして関わる人への愛。 大原野の魅力的な人や場所を次々と紹介し、つながりを生み出してくれるべ・サンスンさんの背中を見ながら、この場所で過ごす1ヶ月への準備は整っていきました。
 
動画提供:岩波 友紀
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YCノート | Towa
クリエイターが来る前、かずきくんと同じく大原野スタジオの改装工事を手伝いました!べ・サンスンさんに人手が欲しい!と言われ、友人に共有したところ、なんと高校の同期が大阪から参戦してくれました。また、この事業に関わられている行政書士の新谷さんもお手伝いに来てくれ、べ・サンスンさんの人を集めるパワーと温かさに驚かされました。
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YCノート | Kazuki
大原野スタジオの改装工事を手伝っていましたYCのかずきです。大原野スタジオでの思い出は、帰りの電車賃がなくなったこと、レジデンスオーナーのべ・サンスンさんがだんだん母親のように感じてきたけど全然そんなことなかったこと、左官にハマったことです。

クリエイターのための場所を、大原野という里山につくる

10月の初旬、大原野のまちあるきの日。大原野の青々とした竹に囲まれると、考え事もいつの間にかするするなくなって、その場で参加者との会話が弾みました。
まちあるきをしながら、二人のクリエイター、レジデンスオーナーに話を聞きました。言葉の壁が多少あったけれど、韓国語、英語、日本語を織り交ぜながらゆっくり会話をしました。
everyone at Oharano Tour!! :) 密着した日:2025/10/1 wed 晴れ
everyone at Oharano Tour!! :) 密着した日:2025/10/1 wed 晴れ
Youth Coordinator:Kazuki、Yuxin
大原野にレジデンス施設をつくったきっかけや想いを教えてください。
べ・サンスン
芸術家が活動をするときに、私はその場所が静かでなければいけないと思っています。
自分自身も、クリエイターとして制作を行なっているとき、音が多い環境だと何もできなくなってしまう。だから大原野のこの場所のように静かな場所で、作品を制作できるのは芸術家にとって一番ベストな場所だと思っています。
きっとこういう場所でこそ、クリエイターがゆっくり自分自身と向き合い、制作に向き合い、良い作品ができる場所なんじゃないかなと思う。
できれば、世界中のクリエイターにが大原野に来てもらいたいくらい。
制作をする時は自分と向き合えるような、静かな里山である場所で制作できたらいいなと思って、この場所をレジデンスにしました。
日本の茶の文化を研究するクリエイターの方とOHARANO STUDIO GALLERYで対話をするべ・サンスン
日本の茶の文化を研究するクリエイターの方とOHARANO STUDIO GALLERYで対話をするべ・サンスン
 
 

Interview with Creators ー Juhyun Hwang, Kim Taehyon

京都で記憶と時間を巡る表現方法を探ったふたりのクリエイター

 
京都・大原野で暮らす人のバックグラウンドや記憶に触れながら、自らが組んだAIプログラムを使い、参加型のクリエーションを行ったJuhyun Hwang。
その場に来た参加者に好きな場所で、そして自由にポーズをとってもらい、その写真を撮る。写真はあくまで記念写真のような日常的なものに見え、構図などに特に手を加えていないよう。写真をアップロードして、「名前・自分が好きな場所・自分が好きな言葉」をAIプログラムに記入すると、画像が生成されていきます。 画像には、ひとの肉体の上に骸骨が重なり、隙間やあらゆる場所から色とりどりの花が生える。人ごとに異なる種類の種類や大きさ、色、組み合わせは、その人の固有の人生の物語と美しさを象徴しています。言葉の奥に潜む無意識が、AIプログラムの仕組みを通して拾い上げられ、視覚化されました。
 
Juhyun Hwang (以下、Juhyun)
私は無意識の形状を視覚化する作業が好きで、ずっと関連した作業をしてきています。 今回の作業は京都という歴史のある土地で生きる人々の「記憶の精髄」を視覚化するAI基盤の観客参加型作品です。
多様なバックグラウンドを持って生きる人々に参加をしてもらう。今回のレジデンスを通して、京都に暮らす100人に参加してもらうこと。
骸骨は個人性を超えた存在の普遍的本質を、その中に咲く花は各自の固有な人生の物語と美しさを象徴しています。
有限である肉体、ですが記憶と経験は物理的形態を超越して永続するという哲学的思考を土台に、現在を生きていくすべての瞬間がすでに永遠の次元に属するという認識を提示しています。 京都の重層的な時間の中で個人の存在意味を光で形象化した作業であり、無意識の中で生きていく私たちの本質を探す作業だと考えています。
 
Yuxin and Juhyun at Tour
Yuxin and Juhyun at Tour
 
Juhyun
存在というもの自体に興味がありました。あなたの存在はその物質的な身体だけではなく、もっと魂のようなものであると。それが時間の経過や場所などの要素によって、異なる形で構成されてると信じています。
Juhyun さんがツアー中に歩きながら、そう話してくれました。とてもロマンチックで、共感ができた言葉でした。(Yuxin)
Juhyun
人々の記憶は時間に記録されると思います。 それは場所でもあり、骨として残ることでもあり、どんな形であれ自由に存在する。 これは死と生に対する話ではなく、存在そのものに対する時間性を意味しています。 京都にいる人々、場所、建物はそのような記憶の精髄が集まっていることは私たちが無意識的に忘れていますが、AIでこれを視覚化した時、どんな姿が出てくるのか気になります。 今は人を対象にしていますが、その後は建物、自然、動物に拡大したいです。
 
Kim Taehyun (以下、Kim)
ドキュメンタリーのアプローチに興味があるんです。写真を撮ったり動画を撮ったりする時、どうすれば対象や人々、ある種の記録すべきものを表現できるかに集中します。現実世界や実在する物体の概念、あるいは実在する人の思考を歪めたくない。表現によってあらゆる種類の歪みを生み出したくない。だからこそ、ドキュメンタリーを観たり制作したりするのが好きなのです。
ウォーキングツアーの最中、カメラを向けるKim
ウォーキングツアーの最中、カメラを向けるKim
撮影をするKim
撮影をするKim
📍15:00ごろ、OHARANO STUDIO GALLERYの座敷に寝転ぶ。風通しの良い部屋が心地よい。
📍15:00ごろ、OHARANO STUDIO GALLERYの座敷に寝転ぶ。風通しの良い部屋が心地よい。
Kazuki
京都に来た時にカルチャーショックを受けましたか?
Kim
あまり感じなかった。なぜなら、人々が私に何を言っているのか理解できなかったから。それがカルチャーショックを感じなかった理由だと思います。でもとても自然な場所でした。
Kazuki
自然な場所?大原野という地域が?
Kim
京都。ある種の懐かしさを感じるんです。親しみやすい感じかな。たぶん韓国に似てる。景色とか、こういう木々や公園とか。
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YCノート | Kazuki
僕自身も京都で「KG+」のアシスタントを務めるなど、写真業界に関わってきた背景からKimと文化芸術に対する国や行政の補助の話になった。韓国はそういった補助や助成金が多いことで有名だ。対して日本を比べてみると大きく差があるように感じた。 Kimは韓国でアトリエ兼ギャラリーのような場所を始めようと思っているらしい。韓国に行って、そういった文化事業の視察をしたくなった。
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YCノート | Towa
Juhyunさんと一緒にいらっしゃっていた方が、***in residenceの仕組みに感激していたのが衝撃だった。韓国でもこのようなコーディネーターの交流の機会を設けたいとアスタリスク酒場に参加してから繰り返していたのが印象的。
 
📍11:00ごろ 京都市洛西竹林公園の見学中
Kazuki
レジデンスに参加してから、心境や作品などに何か変化はありましたか?
Kim
 
大きくは変わらないと思う。今は自分の芸術スタイルを確立している最中だから。今回の滞在は、自分の作品やコンセプト、あるいは将来の道筋について再考する機会だと感じています。
この街だけじゃなく、京都は文化的に豊かで…韓国では経験できないことばかり。例えばお祭りとか、地域の人々が協力し合って仕事に取り組む姿とか。それをドキュメンタリーで記録すべきだと考えています。視野を広げ、自分が知っているものや文化と比較することができる、良い機会でもあります。

 
観光ではなく、街から少し離れた大原野という土地で制作を行うこと。
静かだけれど、そこでは人の営みがずっと続いていて、畑があって、大事に手入れがされた竹林があって、季節の音がどこからともなく聞こえています。
この大原野という場所に魅力を感じ、スタジオをつくり、さらに別のクリエイターを迎え入れているOHARANO STUDIO GALLERYには、立ち止まり、自分の時間と向き合うための環境がある。
異国に来て、新しく変わるためだけの滞在ではなく、変わらずにいたり、変わらない、ということに気づくこともできる場所。
記憶や存在の意味を問い、記録と向き合う、今回OHARANO STUDIO GALLERYに滞在したふたりのクリエイターにとって、そんな時間が、大原野には流れています。