公園のそばの設計事務所が、「リビング」になるとき

The English version of this Article can be read from here!
 
「*** in Residence Kyoto」は、海外からやってくるさまざまなクリエイターと、京都に暮らす生活者が日常を共有し学び合い、新しい価値観や関係をともに育てていくレジデンスプログラムです。
2025年、北区・船岡山公園に位置のすぐそばにある設計事務所 STUDIO MONAKAに、フランスからのパフォーミングクリエイターJules Goliath が約1ヶ月間滞在制作を行いました。

Creator


Residence


日々のオフィスでの制作、近隣住民との交流、公園での観察 ——その一日を通して見えてきたのは、「ものを交換する」という行為の裏側にある学びや問い、そして異なる文化背景が交差する瞬間でした。
クリエイターのJules Goliath、STUDIO MONAKAのスタッフの奥山 幸歩さんにYouth CoordinatorのXian Yuxin (カンウキン)が密着し、滞在の記憶をたどりました。
🎤
  • 聴き手・記事執筆 ユースコーディネーター
 
本文中には、執筆担当以外の Youth Coordinator たちによるコメント[🌀YCノート🌀]をところどころに挟み込んでいます。ページを進めるたび、別の目線からの気づきや驚きがそっと挟み込まれるような、多層的な読み心地を感じてもらえると嬉しいです。
 
 

Interview with Residence Owner 奥山 幸歩さん, STUDIO MONAKA

公園のそばの設計事務所が、「リビング」になるとき

カンウキン(以下、ウキン)
この場所、とってもオープンですね。
奥山 幸歩 (以下、奥山さん)
そう、こどもが遊んでたり、ふらっとちょっと犬の散歩しにきたりする、地域の公園なんです。
ウキン
今回レジデンスとなったSTUDIO MONAKAについて教えてください。
奥山さん
STUDIO MONAKAは、設計事務所、そして船岡山公園の管理事務所でもあります。設計事務所が公園の管理事務所の中でやっている意味は、公共空間に開いている公園のデザインに対して、私たちが建築家として何ができるかを実験しています。
そのうちの一つが、毎月開催している「船岡山オープンパーク」。***in Residence Kyotoに今回参加したのも、その実験や挑戦の一つだと思っています。事務所の空間を公共に開きつつ、ギャラリー空間に連携してたりとかっていうのも。
ウキン
Jules Goliath(以下、Jules)さんとは日々どんな感じで関わっていたんですか?
奥山さん
結構まめに、今日何してる?とか、こちらから連絡取るようにはしていました。なんかそうやって声かけると、「今日何時に行くよ」とJulesも言ってくれるようになって、いつでも本当にここ来ていいんだよっていうのをJulesに伝えたいなと思っていました。割と結構平日は毎日のように会ってたかも。こっち(STUDIO MONAKA)がリビングみたいな感じ。
ウキン
最初にこの場所に来たとき、事務所と公園の関係性が面白いと感じました。この公園は日常の延長にある、ほんとうにリビングのようですね。
奥山さん
Jules は物事をじっくり観察しながら、しかも大胆に提案してくれるんです。公園の利用や住民との関わりも、デザインの一部として捉えてくれているのが面白かったです。
 
 
ウキン
JulesはSTUDIO MONAKAでどんなことをしていましたか?
奥山さん
ちょうどこのスペースで風呂敷を広げてものを交換してたんですけど、それで終わりじゃなくて、来た人とすごく長い時間コミュニケーションして、ずっと喋ってましたよ
ウキン
Julesさんが来て、いつもと違う人が来てたとかありましたか?
奥山さん
 
一度も会ったことがなかった人が、このJulesが来てた 1ヶ月で出入りしてくれてた印象があります。もちろんモナカもたくさん面白い人をJulesに紹介したので、もともと知ってた人もいっぱい来てくれたけど、ここがまさか設計事務所やと思ってないような人がJulesのおかげでたくさん来てくれて、モナカで取り組んでいるイベントの紹介をしたり、事業の紹介もできたりして、そういう意味では発展はありました。
ウキン
アーティストインレジデンスをやるのは、今回が初めてですか?
奥山さん
今回が初めて。***in Residence Kyotoの話が来る前に、作家さんが作った作品をポップアップ的にここで展示できたらいいなという話は前からしてたんですけど、これまでできていなかったんです。でも、今回Julesが来てくれてたおかげで、実際にここを展示空間にすることができた。私たちもJulesと一緒に実験していたような感覚でした。
 
ウキン
今度、またクリエイターを受け入れたい考えとかありますか。
奥山さん
あります!続けていけたらいいなって事務所のみんなと話しています。
ウキン
今後はどんな人を受け入れたいなどありますか?
奥山さん
こんな人!というのはなかなか難しいですけど、次は公園のなかで大きな展示をしたいという気持ちがあります。ここ船岡山公園のような広い公園で、屋外で展示できるのはきっと珍しいと思ってて、しかも京都で。
大きいものを外で展示できるメリットが、船岡山にはあると思います。事務所のなかには、木工器具が揃っているちいさな工房のスペースがあるので、あそこのものを使って作ってもらって、公園で展示するとかもできたらすごく面白いと思ってます。
今回のレジデンスでは、交換したものが雨に濡れたり、風で飛んでいってしまうかもという心配があったので室内での展示になりました。今後は公園の中でも作品展示できるといいなぁ。
🌀
YCノート | Hana
屋外でどのような展示設計にするか、京都市街を一望できる船岡山公園という開かれた空間で、木工器具が揃っているというメリットがあり、制作から展示までが地続きとなるようなさらなる使用が期待できそうです。
 
 

Interview with the creator — Jules Goliath

「歩くこと」と「交換すること」が生む、新しい風景のスケール ➖ 京都という場所が、プロジェクトの「必然」に

STUDIO MONAKAでJulesをインタビューするウキン。Julesが街の人々と物を交換する際に持っていたバッグとともに。
STUDIO MONAKAでJulesをインタビューするウキン。Julesが街の人々と物を交換する際に持っていたバッグとともに。
 
ウキン
Julesさんは今回、このレジデンスに参加しようと思ったのはどうしてですか?
Jules
8年ほど前に嵯峨美術大学とのプロジェクトで京都に滞在したことがあり、その時の経験が本当に素晴らしかったんです。クリエイティブな仕事をするのに最高の雰囲気ですし、人々との交流がとにかく興味深くて。「また京都で何かを始めるチャンスだ」と思ったとき、迷いはありませんでした。
ウキン
なぜ、他の街ではなく「京都」がJulesさんのプロジェクトにぴったりだと思ったのでしょうか。
Jules
このプロジェクトをもう一度動かそうと考えたとき、自分の中で「これはきっと日本的なプロジェクトになるはずだ」という不思議な予感があったんです。 モノに宿る精神(スピリット)への細やかな眼差しや、道具を慈しむ文化。そして、僕が作ったこのバッグの佇まいそのものが、どこか日本的に感じられました。だからこそ日本で、それも精神性が深く根付く京都で実現させたいと強く願ったんです。京都の人たちがモノの中に豊かな意味を見出す姿に、僕自身の「モノの見方」が共鳴するのではないかと考えました。
ウキン
確かに、京都の方のモノへの向き合い方は、西洋とは少し違うかもしれませんね。一つのモノを長く、丁寧に整えていくような感覚があります。
Jules
そうですね。お金に対する考え方すら、少し違っているように感じますよ。
 

予定を捨て、場所の「呼吸」に身を委ねる

 
ウキン
実際に京都に来てみて、自分自身やプロジェクトに変化はありましたか?
Jules
大きな変化がありました! もともとは京都府北部から続く「丹後街道」を、自作のデバイス(バッグ)を背負って長く歩く計画だったんです。でも、STUDIO MONAKAに到着してすぐに気づきました。「この場所はすでに地域に驚くほど開かれている。わざわざ別の場所へ探しに歩き回る必要はないんじゃないか。むしろ人々が私を必要としてくれる場所に留まるべきだ」と。
ウキン
STUDIO MONAKAの奥山さんも「ここはリビングみたいな場所」とおっしゃっていましたね。
Jules
その通りです。STUDIO MONAKAのみなさんは建築設計事務所でありながら、人々が集う場を作るという「サイドミッション」をとても大切にしていました。だから僕も、移動するのをやめてこの場所に留まることにしたんです。 すると面白いことに、僕が歩いていく代わりに、近所の人たちが「あの変な奴が来ているぞ、モノが交換できるらしい」と、向こうから僕のところへ歩いてきてくれたんです(笑)。私の予想とは完全に逆のことが起きました。でも、その方がずっと豊かだったんです。自分のやりたいこと以上に、ここの「流れ」に身を委ねる。それは本当に完璧で、穏やかで、僕にとっても大きな成功でした。
ウキン
プロセスの逆転ですね!
Jules
まさにそうです。当初の計画とは正反対ですが、全く後悔はしていません。自分のやりたいこと以上に、ここの「流れ」に身を委ねる。それは本当に完璧で、穏やかで、僕にとっても大きな成功でした。計画を忘れて、道中で起こることにただ従う幸せを教わりました。
 

言葉を超えた「コミュニケーション」の形

 
ウキン
街の人とはどうやって交流されていたんですか? 言語の壁などは感じませんでしたか?
Jules
僕の拙い日本語と(笑)、あとはジェスチャーですね。手ぶりを交えたり、パントマイムみたいに身振り手振りで伝えてみたり。でも、それで十分なんです。どんな方法を使ってでも、心を通わせようとすれば誰とだってコミュニケーションは取れるものだと実感しました。
僕が日本人ではないからこそ、通りを歩いているだけでも視線を感じますし、ましてやこんな「妙なもの」を抱えていればなおさらです。でも、お年寄りの方々もみんな「それは何だい?」と笑顔で話しかけてくれました。その瞬間、言葉以上のものが通い合っているのを感じました。

「反骨精神」から生まれた、お金のいらない旅

 
ウキン
Julesさんが背負っているあの不思議なバッグ、そもそもどうして「物々交換」を始めたのですか?
Jules
2年前、パリでの苦い経験がきっかけです。展覧会に招待されたのに、輸送費も何もかも自腹。まるで夕食に招待されたのに「食材も自分で買って料理もして、自分は食べさせてもらえない」ような状況に憤りを感じて(笑)。「だったら、一人で運べる最高に軽い作品を作って、お金のいらない仕組みでやってやろう」と思ったんです。
ウキン
アート界のシステムに対する「反骨精神(レジスタンス)」から生まれたんですね。
Jules
その通りです! アーティストには常に効率性やオリジナリティが求められますが、僕はもっとゆっくり進みたかった。「歩くこと」のスケール感は、その遅さにこそ価値があります。お金を介さず、モノと物語を交換する。その方が、ずっと気楽で豊かなんです。
 
ウキン
Julesさんが交換のルールとして言っていた「高価なものではなく、あなたにとって面白いものを」という言葉が印象的でした。
Jules
はい。常に効率性や利益を求められる世界への回答として、僕は「遅さ」や「お金を介さない価値」を選びました。交換のルールは「高価なものではなく、あなたにとって面白いものを」という一点だけです。
高価なものをもらうと申し訳なくなってしまいますし、お金とは別の軸で価値があるものに触れたかった。みなさんが持ってきてくれるモノには、お金では買えない「長い物語」が詰まっていました。物語が深ければ深いほど、そのモノは店で買える品物よりもずっと価値のあるものになるんです。

一期一会の出会いと、関係者への感謝

 
ウキン
今回の滞在を振り返って、どんなお気持ちですか?
Jules
何から何まで素晴らしい「歓迎」に満ちた一ヶ月でした。受け入れてくれたSTUDIO MONAKAのスタッフ、ニュイ・ブランシュのチーム、アンスティチュ・フランセの方々。みなさんのおかげで、出会った人々、仕事、滞在場所のすべてが完璧でした。今も温かな余韻に包まれていて、本当に心地よいです。
ウキン
Julesさんの人々と出会うあり方は、まさに「一期一会」のように感じられますね。
Jules
ええ。一度きりの出会いもあれば、滞在中に何度も会いに来てくれた方もいます。すでに友達になった人もいて、彼らとは絶対にまた会うだろうと確信しています。 僕が想像できる唯一の変化は、彼らに「物語付きのモノ」を手渡したことです。かつて僕のモノだったものが、今は誰かの家にある。時々それを目にして「あの変な奴と交換したな」と思い返してくれたり、その交換という行為がずっと続いていってくれたら、それは何より幸せなことです。
ウキン
実は、私の財布の中に一つ、Julesさんに渡したいモノがあるんです。これ、フランスに連れて行ってくれますか?
Jules
もちろん、喜んで! 今はもう交換するモノがありませんが……あ、でも何か探しますね。ありがとうございます。
ウキン
日本に、また戻ってきてくれますか?
Jules
100% YES!できるだけ早く、またこの場所に戻ってきたいと思っています。